(やすり)

鑢は、面を平らにし、正確な形を作るために使われる道具です。やすりには、粗目、細目などの種類があり、平やすり(短冊)、丸やすり、かまぼこやすり、三角やすり、刀刃やすり、鏝やすり、楕円やすり、蛤刃、角やすりなど、多様な形状が存在します。用途に応じて適切なやすりを選び、線象嵌や平象嵌の仕上げには主に油目を、鋳肌を落とす場合には粗目を使います。

やすり目そのものを美しく効果的に使う技術もあり、例えば刀の切羽(はばき)に見られるように、の面に粗い鍼を斜めに走らせる技法があります。この技術は熟練した職人によるもので、やすり目の返りなどが軽く現れる仕上がりとなります。こうしたやすりは鏨で斜めに目を切ったものでは得られない効果です。

正倉院にある鑢(錯)は、現在のおろし金のような目立てが特徴です。刀のなかご(茎)に使うやすりの筋目も各刀工の系統によって異なり、鑑定の指針となることもあります。これらの筋目には、切りやすり、横やすり、筋遠い、大筋違い、松垣、鷹の羽、逆鷹の羽など、さまざまな名称があります。

<参考>

  1. 日本金工作家協会編集委員会『彫金・鍛金の技法Ⅱ』日本金工作家協会、1970年