片切彫り

(かたぎりぼり)

片切彫りは日本の金属工芸における独特な技法で、金属素地に(たがね)を使って彫刻を施す方法です。この技法は、一文字になった片刃の藍を用いて金属面に太い線を深く一方、浅く他方に彫り込み、その結果、日本画の筆法に似た質感、抑揚を生み出します。この技法は江戸時代の中ごろに開発され、それ以前には見られませんでした。

元禄時代に横谷宗珉によって考案されたと言われ、彫刻に使われる鏨は様々な種類が作成されました。この技法の特長は、鋤鏨と似た片切鏨を使用し、その片方の角を活用して、筆致の勢いを彫刻に反映させることです。この方法により、彫刻が文字や絵画を筆で描かれたような滑らかな線で表現されるため、片切彫りの独自の特色が生まれます。この技法により、図柄の自然描写において硬軟や緩急が自在に表現できます。

近世において、特に幕末から明治時代にかけて、金工家である加納夏雄が片切彫りの名手として知られていました。彼はこの技法を巧みに用い、その後の金工家に影響を与えました。また、香川勝広も夏雄の弟子として片切彫りに新たな表現をもたらし、この技法の進化に貢献しました。

明治時代において、金工家たちは例外なく絵師と協力し、彫刻師と絵師が連携して作品を制作することが一般的でした。この協力関係は、河鍋暁斎の日記にも言及があり、彫刻師が絵師と共同制作を行っている様子が記録されています。そして昭和初期にかけて、花鳥風月などの図柄が多く制作されました。当時の著名な金工家たちは、手板、壷、置物などに片切彫りを活用し、作品の文様や大きさに応じて異なる表現方法を採用しました。

金属工芸において特別な芸術的技法として高く評価されており、その特有の質感と写実的な彫刻によって、美しい金属工芸品が創り出されました。

<参考>

  1. 菅原通濟草柳大蔵 前田泰次『日本の工芸3 金工』淡交新社、1966年
  2. 會田富康『鋳金・彫金・鍛金』理工学者、1975年
  3. 大滝幹夫『日本の美術 第305号 金工-伝統工芸』至文堂、1991年
  4. 日本金工作家協会編集委員会『彫金・鍛金の技法1』日本金工作家協会、1968年
  5. 長野裕 井尾建二『金工の着色技法』理工学社、1998年
  6. 長谷川栄『日本の美術 第111号 夏雄と勝珉』至文堂、1975年
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