蹴り彫り

(けりぼり)

蹴り彫りは、別名「蹴鏨(けたがね)」とも呼ばれ、先端が一文字になった鏨の片端を金属面に当て、(たがね)の尾を金鎚で打つことで、短い楔形の凹面の連続した線を作り出します。彫刻の調子や質感は、鏨の当て方や金槌の打ち方によって異なり、力強さや繊細さが表現され技法の巧妙さによって魅力が増します。

蹴り彫りは毛彫と同じ時期に始まった技法で、古代から存在しています。 蹴り彫りは、手で彫るというよりも文字通り蹴るという方が適当で、鏨を用いて素地に三角状の痕跡を付ける手法です。鏨の先角が鋭角になっているナメクリ鏨のような道具を使用し、あたかも蹴るように金属面に打ち込んで行います。軽やかで連続した弾むような線を刻みます。奈良時代平安時代の多くの遺品に見られ、正倉院の狩猟紋銀壺や鏡、神護寺経帙(きょうちつ)金具の蝶などが作例です。また、古墳時代の冑の胴巻板加飾にも広く見られます。

他の彫金技法と異なり、彫るのではなく打ち込むことによって文様を刻みます。打ち込みよって文様が刻まれるため、鏨を持つ際に薬指が1本多く加わり、その薬指が打つ際の要所となります。

<参考>

  1. 菅原通濟草柳大蔵 前田泰次『日本の工芸3 金工』淡交新社、1966年
  2. 會田富康『鋳金・彫金・鍛金』理工学者、1975年
  3. 大滝幹夫『日本の美術 第305号 金工-伝統工芸』至文堂、1991年
  4. 香取正彦 井尾敏雄 井伏圭介『金工の伝統技法』理工学社、1986年
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